
自費出版の仕事をしていると、こんな相談を受けます。
「自分なんかが本を出しても、読む人なんていないんじゃないか」
「私の人生なんて普通すぎて、わざわざ本にする価値はないと思う……」
そんなことはありません。
あなたの書くものには価値があります。
なぜなら、あなたがこれまで見聞きしてきたこと、感じてきたこと、体験してきた出来事は、他の誰一人として同じように経験していないからです。
「プロの作家ではないから価値がない」と考えるのも、少し違います。
私自身、よく独立系書店に立ち寄っては、おもしろそうな自費出版の本を買って読みます。
その際、商業出版なのか自費出版なのかはまったく気にしていません。パラパラっとページをめくって、おもしろそうかどうかだけで判断しています。
読者にとって大事なのは、誰が書いたかという肩書きよりも、中身が自分にとって興味深いかどうかだけなのです。

クマヤマ(編集者・作家)
キャリア20年超のベテラン編集者。作家としても小説を6冊刊行。
▶ クマヤマの詳しいプロフィール
普通の暮らしにも需要はある
「でも、私の毎日は本当に平凡だし……」と思うかもしれません。
しかし、普通の暮らしにも需要はしっかりと存在します。
あなたにとっては見慣れた日常の光景でも、他人から見れば新鮮で、夢中になって見たくなるものかもしれないのです。
分かりやすい例として、お笑いコンビ「ドンデコルテ」の渡辺銀次さんの話をしましょう。
2025年のM1グランプリで準優勝し、一躍人気者となった銀次さん。
漫才師としての評価もさることながら、YouTubeでの活動が大きな話題を呼んでいます。
彼が配信しているのは、同期の芸人と暮らすシェアハウスでの日常系の動画です。
その中で銀次さんは、チャーハンを作ったり、シャツにアイロンをかけたり、靴を磨いたりしています。
舞台上のキャラクターではなく、素の40歳の男としての姿です。
おもしろいことをわざわざ言うわけでもなく、「笑わせてやろう」というガツガツ感は一切ありません。
それでも、そののほほんとした動画はとても人気で、「癒される」「どんどん銀次のファンになっていく」といったコメントが並びます。
中年男の普通の暮らしにこれほどの需要があったのかと、銀次さんはもちろん、視聴者自身が驚くほどです。
「派手な出来事」より「気持ちの機微」を丁寧に書く
銀次さんは日常の「丁寧な暮らし」を切り取ることで、視聴者をひきつけました。
これを本づくりに置き換えるなら、あなたがやるべきは「丁寧に書くこと」です。
描写を丁寧に、言葉選びを丁寧に、読者にしっかりと伝わるように言葉を紡ぐ。
その際には「出来事」ではなく、「気持ち」を書くことが何より大切です。
起きた出来事の派手さだけで勝負しようとすると、波乱万丈な人生を送ってきた人には勝てないかもしれません。
しかし、ごく一般的な人生のワンシーンであっても、その瞬間に感じた「気持ちの機微」は、意外なほどドラマチックなものです。
派手な人生が読者に与えるものは「衝撃」ですが、普通の人生は「共感」を与えます。
noteなどのプラットフォームで人気を集める記事には、ごく普通の人が書いた日常の記録が多く含まれています。
そこで求められているのは、映画のような派手な展開ではなく、「あ、これ自分のことだ」と思えるような、質感のある共感です。
誰かに似せる必要はない
だからこそ、無理をして誰かのような文章を書こうとしたり、自分を大きく見せようとしたりする必要はありません。
誰かに似せようとした瞬間に、「あなたらしさ」という最大の魅力が消えてしまいます。
大きく見せようとするのも同様です。
人はそれっぽい作り物ではなく、剥き出しの物にこそ興味を持つのです。
商業出版であれば、売上や利益のために、ターゲット層に合わせて内容や方向性を変えることが求められる場面も出てくるでしょう。
しかし、自費出版はどこまでも自由です。
他人の目を気にせず、あなたが書きたいことを、あなたの好きなように書いてください。
丁寧に書かれたあなたの言葉を、「好きだ」と言ってくれる人がこの世界にはいるのです。
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